質問力を高める
以前に「優れた営業担当者の特徴」を明確にするためのアンケート調査を行い、138名の回答を得ることが出来ました。回答者の内訳は、「営業職」が51名、「営業職ではないが、営業を兼務している」が35名、「営業職以外で、営業の兼務もしていない」が52名でした。そのアンケート調査の結果、「優れた営業担当者の特徴」として最も多くの方(75.6%)が回答したのが、「傾聴力/質問力が高く、顧客の話をよく聴いている」でした。これは即ち営業力を強化する上では、「傾聴力と質問力」の強化が欠かせないことを示唆しています。ここでは、質問力を高める方法について記述していきたいと思います。
【質問力とは】
質問力とはコミュニケーション能力の一つで、相手に問いかけを行い、それにより情報収集や情報整理を行う能力のことです。質問力が高いと、より多くの情報を得ることができ、より正確に内容を理解することができます。また、質問をするということは、相手に関心を示すことでもありますので、多くの場合、相手との関係構築にも効果的です。
ビジネスの場においては、顧客の課題やニーズを把握し、課題解決のプロセスの一端として自社の製品・サービスを売り込んでいきます。質問力が高ければ、顧客の課題やニーズを把握しやすくなります。また、顧客との関係構築やコミュニケーションの活性化にも傾聴力や質問力が活きてきますので、傾聴力と質問力を高めることはビジネスの成功確率を高めることに繋がります。
【質問力が高いとは?】
質問力が高いとはどのようなことでしょうか。例えば、質問をたくさんする人が質問力の高い人なのでしょうか。確かに、質問をしなければ始まりませんので、それはある程度、的を射ているかもしれません。ただし、質問にも「良い質問」と「良くない質問」があります。「良くない質問」をたくさんされると相手は嫌気が差してしまうのではないでしょうか。つまり「良い質問」を出来る人が、質問力の高い人なのではないでしょうか。
【良い質問・良くない質問とは】
それでは、「良い質問」・「良くない質問」とは一体どのような質問なのでしょうか。それぞれの例を下記に挙げてみます。
<良い質問>
① TPOを踏まえた質問
「良い質問」の例についての解説ですが、質問はまずはTPOを踏まえている必要があります。例えば、弁護士が講師を務めるセミナーに参加したとして、そこで講師に対してするべき質問は法律に関する質問です。決して、車の性能についての質問ではありません。同様に来日した俳優に対する質問で、昨日の夕食について聞くのはアイスブレイクとしては効果的かもしれませんが、良い質問とは言い難いでしょう。作品の見所や演技でのこだわりなど、その専門性を引き出す質問こそが「良い質問」であると考えます。一方で、車の性能や夕食の話題は弁護士や俳優との親和性が低く、その質問の回答を聞いてもためになったと感じることは少ないでしょう。
② 相手のことを良く理解した上での質問(事前情報収集をしている)
「良い質問」をするためには、相手についての事前情報収集をしておくことも重要です。例えば小説家に対して質問をするのであれば、その小説家が過去にどのような作品を執筆しているのか、どのようなジャンルの小説が得意なのかを知っておく必要があります。小説家の背景をよく理解していれば、「先生が前に書かれた○○というホラー小説ですが、すごくリアリティがあって鳥肌が立ちました。どうしてあんなにリアリティのある描写が出来るのですか?」というような質問をすることができます。相手についての情報収集を行った上で、仮説を持って質問を行うとより良いでしょう。例えば、先ほどの質問に「もしかしらた似たような経験をしたことがあるのですか?」といったワードを加える感じです。相手も質問者が自分のことをよく知ってくれていると思うと、つい嬉しくなり饒舌になるのではないでしょうか。逆に事前情報を持っていなければ、「先生はどんなジャンルの小説を書かれるのですか?代表作は何ですか?」というような失礼かつ面白味のない質問になってしまうかもしれません。
③ 相手の課題・ニーズを引き出す質問(特に相手の潜在ニーズに気づきを与える質問)
「良い質問」の中でも特に優れた質問は、相手の潜在ニーズに迫る質問です。人は話をしたり、質問に答えたりする中で、自身を振り返ったり、話を整理したり、考えを深めたりもします。それなので、質問を受けている側が、自身の課題やニーズに気付くこともあります。ここに至る質問は「良い質問」と言えます。その中でも自身ではこれまで思ってもみなかったような潜在ニーズに気付かされることもあります。そのような場合、質問者はただ質問をしただけなのに、相手から感謝されることになるでしょう。相手の潜在ニーズに迫る質問が出来るようになれば、あなたは一流の質問者であると言えます。
<良くない質問>
① 相手をイラッとさせる質問
質問の効果として、情報収集や情報整理ができること、コミュニケーションの活性化や関係構築ができることなどが挙げられます。一方で、質問は相手に負荷を与えているのもまた事実です。当然ながら質問によっては、相手をイラッとさせてしまうこともあります。あなたも質問をされてイラッとした経験があるのではないでしょうか。イラッとさせる質問としては、TPOを踏まえない質問、答えるの嫌な質問などが挙げられます。法律に関するセミナーの後で、弁護士の先生に「○○の新型車の性能について教えて下さい」と質問したらどうでしょうか?「今、それ聞く?」とか「何でそれを私に聞くの?」と思うのが普通ではないでしょうか。「先生の年収はいくらですか?」とか、「この前の裁判、負けてましたよね。敗因は何だったと思いますか?」という質問も相手に失礼ですし、答えるのが嫌な質問です。これらの質問は総じて良くない質問と言えるでしょう。
しかしながら、相手が答えるの嫌な質問だと分かっていても、それを聞かなければならないこともあります。例えば、自社との契約を解除された場合には、その理由を聞かなければならないでしょう。経営コンサルタントであれば、相手に財務状況を聞かなければなりません。先ほどの裁判での敗因を聞く質問も、あなたがクライアントである場合や、上司といった立場にある場合にはそれを聞く必要があります。相手にとって失礼な質問や、答えるのが嫌であろう質問をする必要がある場合には、枕詞をつけると良いでしょう。例えば、「失礼とは存じますが」「お答えしにくいとは思うのですが」「敢えてお聞きしたいのですが」といった枕言葉です。これらの枕詞により一定の配慮をしてしていることを相手に示すことができます。また、質問の中のネガティブな表現をポジティブな表現に変換することでも相手の抵抗感は緩和されることがあります。裁判の敗因を直接聞くのではなく、「この前の裁判、どうすれば勝てていたと思いますか」というような表現の変換をすると、相対的にではありますがネガティブな要素を排除することが出来ます。
② 相手が何を答えたら良いのか分からない質問
相手が「何でも答えます」というスタンスであっても、何を答えて良いのか分からずに回答に困るケースもあります。例えば、「愛とは何ですか?」というような抽象的過ぎる質問や、長すぎて結局何が聞きたいのかを理解出来ない質問、論理性に欠けていて何を聞かれているのかを理解出来ない質問などです。思い当たる節のある方は、自身で質問の目的・趣旨を明確にして、どう質問したら相手が答えやすいかを考えてから、質問をするようにしましょう。
【質問力を向上させるには】
① 5W1Hで質問を作る
質問力を向上させるための方法は数多くあります。その中の一つは、質問の作り方を学ぶことです。質問の作り方の一つとして、5W1Hからのアプローチがあります。When,Where,Who,What,Why,Howからのアプローチです。例えば「こないだ初めて渋谷に行ったんだ。ハチ公の前で友達と待ち合わせて買い物に行ったんだけれども、ハチ公の銅像ってあんなに小さいと思ってなかったよ。ハチ公を見るのも楽しみにしていたから少しがっかりしちゃった。」という会話から5W1Hで質問を考えてみます。
When:いつ渋谷に行ったの?
Where:渋谷のどこに買い物に行ったの?
Who:友達って誰と一緒に行ったの?地元の子?もしかして彼氏?
What:渋谷に何を買いに行ったの?
Why:これまで渋谷に一度も行ったことなかったのに、何で渋谷に行こうと思ったの?
How:ハチ公像ってどんな感じだと想像していたの?
上記のように5W1Hを駆使しすると、質問は作りやすくなると思います。この中で「良い質問」を1つ選ぶとしたらどの質問をあなたは選びますか?どれを質問しても友達同士であれば話は盛り上がるかもしれません。もしかしたらハチ公の話はただの呼び水で、彼氏ができたことを話したいのかもしれませんし、地方から東京観光に行ったのであれば、渋谷に行ったことを自慢したいのかもしれません。でも単純に文脈に沿えば、ここではHowの質問が最適であると考えます。「確かにハチ公像って有名だから期待が膨らんじゃうよね。どんな風なハチ公像を想像していたの?」と質問をすると、相手が話したい文脈に沿った傾聴と質問になるのではないでしょうか。
質問は相手の発言を拾って行うことが多いかと思います。それなので質問は、会話のどの部分を拾ってするのかも重要です。会話のどの部分を拾うかは、事象よりも感情にフォーカスした方が、会話がより弾みやすいと思います。上記の例であれば、「渋谷に行った」・「ハチ公前で待ち合わせをした」・「渋谷で買い物をした」という事象よりも、「ハチ公像を見て小さいと思った」・「ハチ公を見るのも楽しみにしていた」・「少しがっかりした」という感情面にフォーカスした方が、相手に寄り添った傾聴・質問になりやすいと思います。また、ネガティブな感情よりもポジティブな感情を拾う方が楽しい会話なりやすいのではないでしょうか。ここでは、「小さいと思った」・「がっかりした」という感情よりも、「楽しみにしていた」という感情を拾っていきます。しかし、「楽しみにしていた」という感情を拾って傾聴と質問を行っても、その後ですぐに話題に困ってしまうこともあると思います。その場合は「ハチ公像以外にも楽しみにしていたこととかあるんじゃない?」といった質問で、再度「楽しみにしていた」を活用して話題を広げることができます。また、5W1Hの他の要素を活用して「渋谷はおしゃれなお店とかたくさんありそう。渋谷のどんなお店に行ったの」と話題を広げる質問をすることもできます。
5W1Hの質問で留意いただきたいのが、Whyの質問は危険であるということです。Whyの質問は、相手に強いストレスを与える質問になりやすいということです。Whyを5回繰り返すというトヨタ方式は有名で、根本原因の追及などの場面によっては有益なのですが、コミュニケーションの場でWhyを繰り返すことにはリスクが伴うと思って下さい。例えば、「これまで渋谷に一度も行ったことなかったのに、何で渋谷に行こうと思ったの?」というWhyの質問に対して、「渋谷は流行の最先端を行くイメージがあったけど、少し怖いイメージもあって、でも友達と一緒なら平気かなと思ったんだ。」と回答します。それに対して「渋谷は怖い街っていうイメージなんだね。何で渋谷が怖い街っていうイメージだったの?」とか「何で友達と一緒なら大丈夫だと思ったの?」というWhyの質問を重ねることができます。この質問、嫌な感じがしませんか。
② 目的によりオープン質問とクローズ質問を使い分ける
オープン質問とは、回答内容に制限を設けず、相手に自由に回答してもらう質問のことです。オープン質問の例としては、「あなたの趣味は何ですか?」や「この記事を読んでどう思いましたか?」などです。一方でクローズ質問とは、回答内容に制限を設け、相手にその制限の中から回答してもらう質問のことです。例としては、「今度の飲み会に参加されますか?」や「リンゴとみかんのどちらの方が好きですか?」、「この記事を読んで参考になりましたか?」といった質問です。相手の回答はYes/No、リンゴ/みかんに制限されます。
オープン質問は、相手から多くの情報を引き出すことができ、話題も広がりやすい一方で、会話の方向性のコントロールが難しいといった特徴があります。クローズ質問は明確な回答を得ることができ、会話の流れも質問者がコントロールしやすいというメリットがあります。質問をされた側も答えやすく、回答にかかるストレスも比較的少ないでしょう。一方で、会話が広がりにくく、クローズ質問を繰り返すと相手が責められているように感じてしまうのがデメリットです。
オープン質問とクローズ質問の使いどころですが、オープン質問は、相手から詳細な情報を引き出したいとき、会話の話題を広げたいとき、相手にたくさん話をしてもらいたいときに活用すると良いでしょう。クローズ質問は、明確な回答を得たいとき、会話の展開をコントロールしたいとき、自分がたくさん話したいときに活用すると良いでしょう。但し、オープン質問もクローズ質問も偏りすぎると相手にストレスがかかってしまいます。どちらも適度に散りばめて使うのが理想的です。
③ 学習と実践
質問力を高めるためには、学習と実践の双方が重要です。学習を行わず、いたずらに質問を繰り返すことでも質問力は高まるのかもしれません。しかしそれは非効率です。意図せずその質問によって相手を不快にしているかもしれません。「良い質問」とはどのような質問なのかを理解し、どのようにすれば「良い質問」を作れるのかを学習することが重要です。しかしながら、学習をしただけで質問力が高まるわけではありません。学習した内容を踏まえ、質問を実践し、Try and Errorでその質問の良し悪しを自身で振り返ることで質問力はより高まります。逆に実践をしなければ、学習した内容はそのうち忘れてしまうでしょう。これは何も質問力に限った話ではありません。学習したことを実践してこそ実になりますし、せっかく得た知識も活用されなければ宝の持ち腐れです。質問力を高めたいのであれば、学習と実践の双方を心がけていきましょう。筆者もこの記事を書きながら、「自分も実践しなければ」と心がけを新たにしています。
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