冷蔵庫の中には何がありますか?今ある食材を活用する経営理論、エフェクチュエーション

現代のような先行きが見通せない「不確実な時代」において、私たちはつい「完璧な計画」という盾に頼ろうとします。しかし、現実は非情です。緻密に練り上げた計画ほど、予期せぬ変化の前に脆く崩れ去る。そんな経験をしたことはないでしょうか。

実は、成功を収める起業家たちの中には、私たちが教え込まれてきた「まず計画を立てる」という常識とは真逆のアプローチを取ることがあります。そのアプローチが、今や中小企業診断士の試験でも重要論点として扱われ、MBAの現場でも注目を集めている次世代の経営理論「エフェクチュエーション(Effectuation)」です。


1. 冷蔵庫を開け、その中身で勝負を決める

想像してみてください。あなたは今、猛烈にお腹を空かせています。

1. 「完璧なレシピ」を決め、足りない食材を求めてスーパーへ買い出しに行く

2. とりあえず「冷蔵庫」を開け、今ある食材の組み合わせで何が作れるか考え、料理を始める

ビジネスにおいて、前者は「コーゼーション(計画主導)」と呼ばれます。目的から逆算し、必要なリソースを後から揃える、いわばMBA的な優等生のアプローチです。対して、後者が「エフェクチュエーション(実行主導)」です。


2. 成功者が「計画」を捨て、「雑な一歩」を選ぶ3つの理由

新規事業や不確実な領域においては、完璧な計画よりも「冷蔵庫の中身(自分ができることの棚卸し)」の方がむしろ重要かもしれません。そこには3つの戦略的理由があります。

• 未来の予測不能性: 不確実性が高い領域では、どれだけ調査しても前提がすぐに崩れます。計画への依存は、変化への柔軟性を奪う「負債」になりかねません。

• 「不死身」の戦略: 期待収益ではなく「失ってもいい範囲」で動くため、失敗しても致命傷を負いません。何度でも「リトライ」できることこそが、成功確率を最大化します。

• 環境の創造: 計画に従うのではなく、行動することで新たな出会いや機会を引き寄せます。市場を「予測」するのではなく、自ら「創り出す」側に回るのです。


従来型の経営とエフェクチュエーションの違いを、4つの観点で比較してみましょう。

「エフェクチュエーションでは、自分ができることを棚卸しして、いくらまでだったら損していいかということを決めて、その範囲内でやっていく」

この思考の転換が、不確実な時代を切り拓く武器となります。


3.エフェクチュエーションの5つの原則


原則1:手中の鳥(Bird in Hand) — 「持ち物」から始める勇気

「何が必要か」ではなく、「何を持っているか」を問い直してください。以下の3つの問いが、あなたの強力な武器(手中の鳥)を明らかにします。

1. 私は誰か?(性格、嗜好、アイデンティティ)

2. 何を知っているか?(専門知識、経験、特技)

3. 誰を知っているか?(人脈、信頼関係、ネットワーク)


【仮想事例:キッチンカーの立ち上げ】 

もしあなたが「料理が好きで、SNSのフォロワーが1,000人いる」なら、それがあなたの「手中の鳥」です。


原則2:許容可能な損失(Affordable Loss) — 「致命傷」を避ける賢い撤退戦略

投資判断の基準を「いくら儲かるか」という期待収益から、「いくらまでなら笑って失えるか」という痛みの許容範囲にシフトさせます。

例えば、「貯金の50万円までなら、万が一失っても生活に支障はなく、また次の挑戦ができる」と定義するのです。これは決して投げやりな判断ではありません。致命傷(Fatal Wounds)を避け、何度でも「リトライ」を可能にすることで、生存率を極限まで高めるための高度な守備戦略なのです。


原則3:クレイジーキルト(Crazy Quilt) — パズルではなくパッチワーク

エフェクチュエーションによる事業創造は、あらかじめ決められた完成図を目指す「パズル」ではありません。出会いによって形を変えていく「パッチワーク(クレイジーキルト)」です。

競合を敵と見なすのではなく、「一緒に面白いことをしませんか?」と巻き込んでいきます。


【仮想事例:キッチンカー】

 当初はスイーツ専門のキッチンカーの予定でした。しかし、地元の農家から「余った野菜を使ってほしい」と頼まれ、近くのカレー店から「コラボしよう」と誘われ、さらに観光協会から「パンフレットで紹介したい」と声がかかる。 こうした偶然のつながりを縫い合わせていくことで、当初の計画にはなかった「地域密着型の多機能キッチンカー」という事業へと進化していきました。


原則4:レモネード(Lemonade) — 災難という名の「チャンス」

予期せぬトラブルを、計画を狂わせる「エラー」ではなく、新商品開発のための「貴重なチャンス」と見なします。

「人生が君にレモンを投げつけたら、甘いレモネードを作ればいい」

キッチンカーの営業中に「連日の雨」というレモンを投げつけられたとします。客足が途絶え、絶望する状況で「雨の日限定のデリバリーサービス」を試してみる。それが大ヒットし、晴れの日以上の売上を叩き出す。不運をチャンスに変換する柔軟性こそが、エフェクチュエーションの真骨頂です。


原則5:飛行機のパイロット(Pilot in the Plane) — 未来を創るハンドルを握る

最後の原則は、未来を予測しようとするのをやめ、自らがハンドルを握ってコントロールするという姿勢です。

既存の安定した市場であれば、過去のデータに基づいた「予測」が有効でしょう。しかし、未知の領域では予測は不可能です。それよりも、目の前のお客さんの反応や協力者の現れ方を見て、その都度ハンドルを切る。パイロットが刻々と変わる機体状況に合わせて操縦するように、自分自身の行動によって望む未来を創り出していく。これこそがエフェクチュエーションでの生存戦略です。


あなたの冷蔵庫には今、何がありますか?

もちろん、すべての状況にエフェクチュエーションが適しているわけではありません。安定した既存事業であれば、コーゼーションによる緻密な計画こそが正解です。重要なのは、この2つの思考を状況に応じて使い分ける知性を持つことです。

もし、あなたが「新しい一歩」を踏み出せずに立ち止まっているのなら、一度その分厚い計画書を置いてみてください。

あなたの冷蔵庫には今、何がありますか?

まずは以下の3つを今すぐ書き出してみてください。

1. あなた自身が「好きで得意なこと」

2. 誰にも負けない「独自の知識」

3. 助けてくれるかもしれない「大切な知人」

その「手中の鳥」を確認した瞬間から、あなたの新しい物語は始まります。完璧である必要はありません。今日、その「雑な一歩」を踏み出してみませんか?


高嶋秀樹ビジネス研究所

高嶋秀樹ビジネス研究所のHPです。 中小企業診断士やMBAのスキルを活かして、セミナー・研修講師や事業戦略のサポート、文章添削サービスを受託しています。 特に営業力強化を得意分野としています。 営業力強化に関する情報もコラムにて発信していきますので、是非お立ち寄り下さい。

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