交渉力を高めるためのエトス・パトス・ロゴス
Ⅰ.エトス・パトス・ロゴスとは
エトス・パトス・ロゴスとは古代の哲学者アリストテレスが提唱した交渉術です。エトスとは信頼を意味します。パトスは情熱・共感、ロゴスは論理のことです。すなわち、誰が(エトス)・どのように(パトス)・何を言うか(ロゴス)です。交渉においてはエトス、パトス、ロゴスのいずれも重要ですので、営業力を強化する上ではエトス、パトス、ロゴスをそれぞれ高めていくことが重要です。
それでは交渉の場において、エトス、パトス、ロゴスの重要性の順位付けを付けるとどのようになるでしょうか。現実的にはCase By Caseだと思いますが、多くの場合エトス>パトス>ロゴスとなるのではないでしょうか。
例えば、人生最大の交渉であるプロポーズの場面を想像してみて下さい。プロポーズの場面で、誰からプロポーズをされるのか(エトス)、どのようなシチュエーションでプロポーズをされるのか(パトス)、どのような言葉でプロポーズをされるのか(ロゴス)のどれが最も重要だと思われますか。「そんなの全部大切だよ!」というのは勿論なのですが、エトス>パトス>ロゴスという順位付けをされる方がおおいのではないでしょうか。
それでは、エトス、パトス、ロゴスを高めるにはどのようにしたら良いでしょうか。端的に言いますと、エトス(信頼)を高めるには、人間性を高めることが重要です。パトス(情熱・共感)を高めるには、傾聴を行うこと、ストーリー性や当事者意識を強く持つことが重要です。ロゴス(論理)を高めるには、表現力を高めることや、ロジカルな思考力を高めるのが良いでしょう。
ここからはエトス・パトス・ロゴスを高める方法を具体的に解説していきます。
Ⅱ.エトス(信頼)を高める
Ⅱ‐1.)エトスを高めるための行動
エトスを高めるための行動としては、自身の人間性を磨くことがそれに繋がります。まずは社会人としては当たり前のことかもしれませんが、「きちんと挨拶をする」「遅刻しない」「約束を守る」といった誠実さを持って相手と接し、自分のために時間を割いてくれている相手に対して感謝や敬意の念を持って接することです。但しこれらは最初に述べた通り、社会人として当たり前のことです。それなので、これらは信頼の基盤にはなりますが、競合に対する差別化要因にはなりにくいです。
ではエトスの観点で、競合に対して差別化につながる行動とはどのようなものでしょうか。例をあげるなら、「顧客の要望に対して早期に適切に応える」「顧客の期待を上回る対応を行う」「適正な頻度で顧客に対して定期的な訪問を行う」「自己開示を行い、警戒心を解く」「上司同行を行い、上司に言わせる」「Win-Winを考え実行する」ということだと思います。エトスは1日にして成らずです。
Ⅱ‐2.)Win-Winを考え、実行する
私は「Win-Winを考え実行する」というのが特に重要であり、また難しいことだと感じています。なぜならば、「Win-Winを考え実行する」ためには、自社にとってのWinだけでなく、顧客のWinも適切に定義する必要があり、それを成し得る手段を有している必要があるためです。「Win-Win」を成し得る上では、顧客のWinと自社のWinについての相互理解が必要で、且つそれを実現できるリソースや能力が必要だからです。
「Win-Win」を成立させるためには、まずは顧客理解に努める姿勢を持つことから始め、傾聴を行い、相手の立場に立って考え、正しく顧客のWinを定義していきます。次に「Win-Win」を創造する手段とリソースについて考え、実行していきます。このとき本当に「Win-Win」の関係になっているかを見直しして下さい。自社にとってLoseの選択肢となっていないか、顧客にとってLoseになっていないかを確認してください。「Win-Win」が成立していないのであれば、それはエトス(信頼)の観点では悪手です。
「Win-Winを考え実行する」というのは必ずしも容易ではありませんが、それだけに付加価値が高く、差別化可能な行動と成り得る確率が高いのではないでしょうか。
Ⅲ.パトス(情熱・共感)を高める
Ⅲ‐1.)パトスを高めるとは
パトスは情熱や共感といった意味ですが、これまでに意味は知らずとも聞いたことはあるという方は少なくないのではないでしょうか。約30年前に「新世紀エヴァンゲリオン」というアニメが放送されましたが、その有名な主題歌で「ほとばしる熱いパトスで思い出を裏切るなら」という歌詞がありました。パトスとは実は、情熱や共感といった意味だったのです。
では、パトスをほとばしらせるにはどうしたら良いのかについて触れていきます。先ほどプロポーズの例を出しましたが、プロポーズをするためのシチュエーションづくりを考えてもらえれば良いかと思います。パトス(情熱・共感)を高める工夫=相手に効果的に話を聞いてもらうための工夫と考えて下さい。
Ⅲ‐2.)パトスを高めるための工夫
例えば、「本題に入る前に簡単な雑談でアイスブレイクを行う」「相手が興味を持ちそうな話題から入る」「傾聴を心掛け、まずは相手に話をしてもらってから提案を行う」「質問を通じて共感を深める」「相手についての情報を事前にインプットしておき、話題に活用する」「当事者意識を高めるために、主語を私にして主張する」「共通の未来を一緒に描くことで当事者意識を高める」「相手に頼る」といったところがテクニカルな手法です。
また、コーチングの手法でペーシングといいますが、「相手のペースに合わせた話し方に調整を行う」ことでも相手の受け入れ態度が変化します。相手が早口であれば早口でテンポを合わせ、ゆったりとした口調であればこちらもゆったりとした口調で合わせて会話を進めていきます。声のボリュームについても同様で、相手の声の大きさと同じくらいに調整して話をすると相手の話の受け入れが良くなるといわれています。
会話は生き物であり、相手が異なれば展開が異なってきます。また同じ相手でもシチュエーションが異なれば展開も異なってきます。その時々で効果的なコミュニケーションも異なるのが事実なのですが、このパトスの項目であげた例は事前準備や訓練が可能なことも事実です。特に相手に関する情報収集や、何を質問するかは事前に準備をしておきたいところです。
Ⅳ.ロゴス(論理)を高める
Ⅳ‐1.)ロゴスも重要
これまでエトス(信頼)とパトス(情熱・共感)について解説をしてきました。また、おそらくですが重要度は、エトス>パトス>ロゴスであると述べてきました。しかしながらロゴスが重要でないということでは決してありません。ロゴスとパトスが高くとも、提案内容が魅力的でない場合や、分かりにくいものであれば、その提案は通らないかもしれません。ここでは言葉の表現力と論理性を高めていく手法を解説していきます。
Ⅳ‐2.)表現力を高める
まずは表現力を高める手法、要は言い回しについて説明していきます。エトスのパートで「Win-Winを考え、実行する」ことが重要だと説明いたしました。ロゴスの言い回しについても、提案内容を相手が「Win-Win」と感じる言葉で伝えることが効果的です。
例えば、片思いの相手をデートに誘う場面を考えてみましょう。あくまで片思いの相手ですので、相手はあなたには特別な好意は寄せていません。そんな相手に「今度私とデートしていただけませんか」と誘ったらどうなるでしょうか。結果はCase By Caseで、もしかしらた成功するかもしれません。しかし、うまくいかないことの方が多いのではないでしょうか。そこで、誘い方を少し変えてみます。
「この前、確かアボガドがお好きだと言っていましたよね。実はアボガドを使ったパスタの美味しいお店を見つけたのですが、よかったら今度一緒に行きませんか」と誘ってみます。「いや、筆者もデートの誘い方下手過ぎだろ!」という突っ込みはあると思いますが、おそらくは前者よりも後者の方がデートに行ける確率は高いのではないでしょうか。なぜならば、前者では相手にとってのWinがほぼ無いのに対して、後者ではアボガドを使った美味しいパスタが食べられるという明確なWinが存在するからです。
また、エトスのパートで、相手に対して感謝や敬意の念を持って接することが重要であることも述べました。これを言葉に表すこと、つまり相手を承認することでも相手にとってのWinを提供することが可能です。相手に仕事をお願いする場面を例として見てみましょう。
「〇〇さん、いつも感謝しています!先日教えていただいたエトス・パトス・ロゴスという考え方はすごく勉強になりました!実はちょっと〇〇さんにお願いしたい仕事がありまして…この仕事を成功させるために高いスキルを持っている〇〇さんの力をお借りしたいのです。一緒にこの仕事に取り組んでいただけませんか」
この例に対しては白々しいという意見もあるかと思いますが、相手を承認することで、単に仕事を依頼した場合よりも快く受けてもらえる可能性が高いのではないでしょうか。
Ⅳ‐3.)論理性を高める
最後に言葉の論理性を高める手法について解説していきます。言葉の論理性を高めるには、ピラミッドストラクチャーを活用して主張内容のロジックを構成することが効果的です。
ピラミッドストラクチャーとは、最も伝えたい内容をピラミッドの頂点に置き、その下に末広がりにその内容を支持するメッセージを複数配置していきます。更にそのメッセージの下に末広がりにその根拠を配置していきます。このとき、上段は必ず下段の要約となっています。主張を支持する根拠が明確でズレを回避できるのがこのピラミッドストラクチャーのメリットです。ピラミッドストラクチャーについてはまた別の機会に記事にしていきたいと考えています。
まとめ
これまで、交渉力を高めるためのエトス・パトス・ロゴスについて解説をしてきました。礼節を持って相手と接し、Win-Winを考え実行することでエトス(信頼)を高めて、交渉が成功しやすくなる土台を整えます。十分な準備を行い、当事者意識を高く持ち、ペーシングや傾聴・質問を行うことでパトス(情熱・共感)を高め、効果的な交渉の場の雰囲を創り出します。また、表現力と論理性を磨くことでロゴス(論理)を高め、相手の納得度を高めていきます。エトス・パトス・ロゴスを高めることは、交渉力を高め営業力を強化することに繋がります。
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